企業におけるデータ活用促進のためのオンラインイベント「01(zeroONE)」のクロージングセッションでは、クラスメソッドとクラウドエースという国内トップクラスのクラウドインテグレーターが、最新のデータ活用プロジェクトの動向について語りました。豊富な導入実績と先進のクラウド活用スキルを持つ両社が、最近注目されている「Build with SaaS」という環境構築手法について、従来のアプローチとの違いやメリット、顧客の評価など、事例も含め意見を交わしました。
豊富な導入事例と最新クラウド活用スキルを有するトップクラウドインテグレーターの両社に、近年、重要度が増しているデータ活用プロジェクトの潮流を伺います。最近注目される Build with SaaS という環境構築手法は、これまでのアプローチとどう異なるのか。どんなメリットがあり、顧客はどう評価しているのか、両社の事例に触れながらリアルにお話し頂きます。
データ分析基盤の構築は“二人三脚の伴走型”へ。Build with SaaSをスムーズに実現できる組織とは
写真は右から
横田 聡 氏 (クラスメソッド株式会社 代表取締役社長)
吉積 礼敏 氏 (クラウドエース株式会社 取締役会長)
小島 英揮 (株式会社primeNumber 社外取締役、Still Day One合同会社 代表)
データ分析基盤構築は“二人三脚の伴走型”へと移行
クラウドインテグレーションにおけるデータ活用や統合のニーズは、昨今、大きく変化しています。データを簡単に可視化できるという考えが一般化し、直ぐに見たいという要望や、様々な形で試してみたいという気運が高まっています。
Google Cloud専業のスペシャリスト集団であるクラウドエース株式会社 取締役会長の吉積 礼敏氏は、企業におけるデータ活用の現状を語りました。
「システムの納品で終わらず、データを追加して、掛け合わせを行い、組み合わせて、インサイトを得たいという動きが広がっています。かつてはオンプレミスからクラウドに移行させて、データ分析基盤を整備し、結果を経営層に提示するというプロジェクトが中心でした」(吉積氏)
また、AWS(Amazon Web Services)に関して高い技術力を誇るクラスメソッド株式会社 代表取締役社長の横田 聡氏は、企業の変化について説明します。
「最近では事業部主体で、分析まで行うようになっています。ただし、事業部だけでは、基幹システムのデータを扱えません。そこで情報システム部門と協力して、全社のデータを集約して分析し、改善につなげていくことが必要です」(横田氏)
このように現在のデータ分析基盤構築は、企業ニーズやクラウド利用で変化し、分析や改善も含めた“二人三脚の伴走型”へと移行しています。その中で、構築スピード向上と伴走型SI(システムインテグレーション)を、SaaS活用で実現する「Build with SaaS」が注目されています。
モデレーターを務めた株式会社primeNumber 社外取締役の小島 英揮は、SaaS利用のメリットを、世界中から知見がフィードバックされ、膨大な知恵が結集したサービスを利用できる点だと指摘しました。
Build with SaaSを実践するためにも、まずはSaaSについての情報収集が重要です。基幹システムは内製化し、それ以外のシステムでSaaSを利用します。構築に当たって最適なSaaSを見つけ出し、SaaS同士を組み合わせて、データ活用に効果的なシステムを作るのです。
「ここで大きな役割を担うのが、クラウドインテグレーターでしょう。SaaSベンダーは自社以外のサービスまでカバーできないので、他のSaaSとの組み合わせ提案は難しい。でもクラウドインテグレーターであれば、様々なSaaSに詳しく、最適な組み合わせを提案できるのです」(小島)
全社横断的リーダーの存在が成功への近道
データ分析基盤の構築は伴走型になるため、クラウドエースでは顧客企業を雲の上まで連れて行くことにたとえて「クラウドブースター」と命名し、メニュー化しています。クラスメソッドは企業のニーズが多様化している中で、従来の受託型のビジネスではなく、顧客が困った時に相談してもらい、アドバイスする“クラウドの医者”のような活動がほとんどだといいます。その一方で、Build with SaaSを実行する上での課題もあります。
「クラウドエースでは勤怠管理システムを自作しました。SaaSでは当社の強みであるエンジニアの適切なリソース管理ニーズに合うものがなく、自分たちで作るしかなかったのです。SaaSがベストですが、(自社のコア業務に関わる部分は)自前で開発しなければならない場合もあるでしょう」(吉積氏)
データのインポート/エクスポートなどの連携についても、各SaaSにおける仕様の適合度合をチェックすることが欠かせません。気を付けなければならないのがセキュリティの設定で、デフォルトのままでは甘いこともあります。SaaSはそれぞれでユーザー権限が異なるため、複数のSaaSを連携させる場合、ユーザー権限を設定する必要があるのです。
「知見を持った専門家であるクラウドインテグレーターから、信頼できるアドバイザーとしての意見を聞いて、SaaSをモジュールのように組み合わせると、設定が楽になるでしょう」(横田氏)
続いて、Build with SaaSをスムーズに実現する組織のあり方やカルチャーなどのベストプラクティスを見ていきました。まず大切なのは、情報システム部門と事業部がきちんとコミュニケーションできていることです。
情報を貯められるデータレイクを用意して、そこに必要なデータを上げ、情報システム部門も事業部もAPI連携でデータを利用するようにします。さらに、組織の中心でリーダーシップを発揮する人が重要で、オーナーシップを誰が持つか明確にしておくべきでしょう。
「プランAは、全社横断的なリーダーがいるケースです。組織を調整してデータを集め、具体的な指示ができる人がいれば成功します。そうしたリーダーがいない場合はプランBで、小さな単位でまずPoC(Proof of Concept:概念実証)をスタートさせて、まずは成果を出してしまうのです」(横田氏)
単なる技術検証ではなく、ビジネス的な成果をPoCで出すことで、小さくてもよい取り組みだと経営陣に伝え、全社に横展開していきます。それぞれの部署が個別にデータ活用に取り組むと、混乱が生じやすいため、短時間で小さな成功事例を先に作り、それをショーケースとして広げていくのです。
コンビニのデータ分析基盤でも半年でカットオーバー
では、データ分析基盤の構築期間は、どの程度見ておくべきなのでしょうか。かつては、1~2年かかっていて、結果を見るのは大分先になってしまっていました。しかし今は、SaaSを組み合わせる形でシステムを構築していくので、構築期間も大きく短縮されます。
「クラウドエースが担当したセブンイレブンの案件では、コロナ禍の3月に始めて、9月にカットオーバーしました。全国のセブンイレブンの店舗のPOSデータをすべて吸い上げて、集約し、利用できるようにしたものです。日本でこれ以上大規模なデータ活用例は考えられないでしょうが、それでも半年程度でした」(吉積氏)
「全体を取りまとめるのは情報システム部門だと思いますが、CCoE(クラウドセンターオブエクセレンス)という形で、クラウド化を推進する部署を設ける方がよいでしょう」(小島)
ここまでで明らかなように、情報システム部門が現場の課題をきちんとヒアリングするような企業はBuild with SaaSを上手に実践できます。その過程で、クラウドインテグレーターと連携することも、データ分析基盤の構築で成功するポイントです。
データ活用ニーズは急速に拡大しており、今後さらに大きく広がっていくことが見込まれます。吉積氏は次のように強調します。
「SaaS活用のメリットは、小さく始められる点です。低コストでも可能なPoCと、AI(人工知能)を組み合わせた大規模なシステムの2つの流れがあり、両社とも5年後には、現在の10倍の規模になるのは確実です」(吉積氏)
また、横田氏も最後に力強く語りました。
「最近はデータ分析基盤の構築の先にある運用も含めて、ビジネス改善の提案も求められるようになっています。そのためにも様々なSaaSを使いこなしていく方針ですが、技術力を一層高め、顧客のビジネスを成功へと導けたらと思います」(横田氏)
登壇者
「すべての人々の創造活動に貢献し続ける」理念のもと、主に事業会社向けに、クラウド・データ基盤・アプリ等の技術支援や、自社サービスの提供を行っています。カルチャーとして、社員による情報発信にも力を入れており、DevelopersIOやZennの運営や執筆を通じて、数万本のコンテンツを毎月100万人以上の読者に届けています。
Still Day One合同会社 代表
2016年にコミュニティマーケティングを広めるコミュニティ:CMC_Meetup を立ち上げ、現在3000名を超えるメンバーを擁する。2017年にはStill Day One合同会社を設立。AI、ビッグデータ、コラボレーション、決済など複数のSaaS企業でマーケティング業務をパラレルに支援中。著書に『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』『DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C』がある。
企業情報
https://classmethod.jp/
設立:2004年7月7日
資本金:1億円
事業内容:クラウド(AWS等)の技術コンサルティング・開発・運用、データ分析基盤の技術コンサルティング・開発・運用、アプリケーション(LINE、iOS等)の企画開発・運用、SaaS・Webサービスの企画開発・導入支援・運用、
企業向けIT人材育成・内製化支援、無人店舗技術・キャッシュレス決済システムの企画開発・運営
https://cloud-ace.jp/
設立:2016年11月1日
資本金:1億円(2021年12月)
事業内容:クラウドの導入設計・運用・保守やコンサルティング