企業のデータ活用が経営の迅速な意思決定や競争優位の大前提となる一方、日本企業のデータ活用は欧米に比べ遅れていると言われます。こうした状況を踏まえ、データ統合自動化サービス「trocco®︎」やデータ活用伴走支援のソリューションを提供するprimeNumberは、「あらゆるデータをビジネスの力に」をテーマに、企業におけるデータ活用促進のためのオンラインイベント「01(zeroONE)」を開催しました。オープニングセッションは、喜多羅株式会社Chief Evangelist・元日清食品グループCIOの喜多羅 滋夫氏を迎え、データ活用の課題やデータ活用環境のモデルなどについて話を聞きました。
「企業のデータ活用というテーマは、情報システムに関わる方々がより経営に携われる仕事である」と、国内外の大手メーカーにて情報システム部門を統括されてきた喜多羅氏は考えます。基幹システムやそのインフラを安定稼働させることと同様に、企業の情報システム領域ではもはや前提となったこの技術テーマに、情報システムに関わる方々が、企業・事業の浮沈のカギを握るメンバーとして積極的なチャレンジされることを応援すべく、メッセージ頂きます。
“データ活用環境”をスピーディに構築。企業のデータ活用を前進させるSaaSの利用方法とは
写真は右から
喜多羅 滋夫 氏 (喜多羅株式会社 Chief Evangelist)
田邊 雄樹 (株式会社primeNumber 代表取締役CEO)
経営の意思決定でファクトを重視する海外企業
企業における“データ活用”は決して新しいテーマではなく、もう随分前から存在しているものです。しかし、社会や企業活動のデジタル化により、データが増え、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれる近年、企業のデータ活用をめぐる状況も大きく変化しています。
オープニングセッションの冒頭、株式会社primeNumber代表取締役CEOの田邊雄樹は「企業のデータ活用とは、データで何をすることでしょうか」と問いかけた上で、データ活用とは、データを使い、次の三つを行うことだと語りました。
一つ目は、業務やビジネスの状況を把握する「参照(モニタリング)」。二つ目は、知見やインサイトを獲得するための「分析」。三つ目は、AIやマシンラーニングにも通じる「自動化/予測」です。
データ活用の重要性が叫ばれる一方で、日本企業のデータ活用状況はどうでしょうか。総務省の『令和3年版情報通信白書』によれば、「既に積極的に活用している」、「ある程度活用している」企業は5割弱にとどまり、米国やドイツなど欧米の先進国に比べ遅れているのが実情です。
こうした状況について、海外と国内の企業におけるデータ活用に長年携わってきた喜多羅株式会社 Chief Evangelist の喜多羅 滋夫氏は、次のように話します。
「海外企業は経営の意思決定において、ファクト(事実)やエビデンス(証拠)を重要視します。客観性のあるデータに基づいて、活動や施策の整合性を説明できなければ前に進みません。データ活用が経営の大前提なのです。
一方、日本企業の経営者はデータの重要性は理解していますが、組織としての戦略や方針を重要視する傾向が見受けられます。データは、戦略・方針の補助的な位置付けのために使われることが少なくありません。ここに海外企業と日本企業のカルチャーの違いがあるのです」(喜多羅氏)
データ活用の課題は「カルチャー」「体制」「技術選定」
なぜ日本企業におけるデータ活用が、なかなか進まないのでしょうか。情報通信白書の調査結果を基に、話をしていきます。
「データを活用するにあたって、データ収集・管理にかかるコストや、収集後の活用法のノウハウ不足、効果が不明確といった課題があります。加えて、処理や分析などデータを取り扱う人材不足も指摘されています。」(田邊)
さらに喜多羅氏は、データ活用の課題、障壁として「カルチャー」「体制」「技術選定」を挙げました。
まず「カルチャー」では、市場の急速な変化への理解が必要です。経営者はこれまでの成功体験を基に経営しがちですが、消費者の期待値も従来とは変わっています。
「例えば通販で買い物をする場合、以前は商品が届くまで数日かかっていましたが、現在は即日配送も可能というように、スピードに対する消費者の期待値も変化しています。このように変化が激しい中で、データの活用についても、かつての成功体験といった前提条件を補完するものではなく、ファクトに基づくデータを優先した考え方など、カルチャーを変えていく必要があるのです」(喜多羅氏)
「体制」では、データ活用において社内の一体的な活動を、どのように進めるかが課題です。
「経営層の意思決定やマーケティング部門などが業務でデータを活用するには、データを生成する側の専門的なスキルが必要になります。そこで、データを使う側と用意する側が一体感を持ち、データをどう理解し、どうアクションを起こしていくのか、全社的な体制づくりが欠かせません」(喜多羅氏)
「技術選定」では、慢性的なエンジニア不足が指摘される中で、社内の継続した知識、情報のアップデートが難しいといった課題も浮かび上がっています。データ活用環境の構築・運用のために、各部門が外部パートナーへ依頼するニーズも高いですが、全社視点での整合性なくデータを集めることが大きな問題だと、喜多羅氏は述べます。
「販売・マーケティング部門が、消費者理解に特化したデータ収集、分析をパートナーに依頼する場合。また、製造・購買部門がサプライチェーンに特化したデータ収集、分析を別のパートナーに依頼する場合を想定してみてください。
それぞれの部門で、それぞれの課題が設定され、データを活用して解決しようとするものの、部門ごとの目的に応じたデータが集められる結果、データを突合して経営や事業部門が理解できる形にまとめ直す作業は非常に困難です。そのため経営層からの問いに、クイックに答えられません」(喜多羅氏)
SaaSでスピーディに企業のデータ活用環境を整備
企業がそうした課題や障壁に対処せず、データ活用に積極的でないことは、もはや経営リスクそのものと言えます。経営とマーケット実態との乖離や、販売、製造、購買、財務、経理、人事など、組織全体の意思決定に影響を及ぼします。
「こうした経営リスクを回避し、体制や技術選定の観点から、いかにデータ活用のアクションを起こしていくかが経営層や現場に求められているのです。多くの経営者が、データ活用の重要性について理解しています」(田邊)
こうした状況に対して、喜多羅氏は次のように話します。
「ところが、何から手を付ければよいのか分からないというのが実情でしょう。以前であれば、まず情報システム部門などが社内のデータ相関図をつくり、さまざまな情報を正規化するなど時間をかけて整理していました。スクラッチでデータベースを設計・構築するなど、年単位の時間と膨大なコストをかけることも珍しくありませんでした」(喜多羅氏)
ただし現在は、スピードが求められ、その作業中に社会環境が変わり、実装時には適合しないという状況にもなりかねません。そこで、スピーディかつリーズナブルなコストで、データ活用環境に必要な処理を行うETL(抽出・変換・格納)やDWH(データウェアハウス)、BIツールなどのSaaSや、システム基盤となるクラウドサービスなどのソリューションが、国内、海外のベンダーから提供されています。
喜多羅氏は、提供されるソリューションを企業が選択するに当たって、これまでの経験を踏まえてアドバイスします。
「他社の導入事例や、自分たちが納得できるモデルを選び、トライしてみてください。それにより、自社のニーズに合っているかどうかPDCA(計画、実行、確認、改善)を回しながら検証します。例えばデータの統合では『trocco®︎』も選択肢の1つになるでしょう。SaaSのツールをうまく使ってスピーディにアクションを起こすことが、データ活用の第一歩になります」(喜多羅氏)
最後に田邊はオンラインイベントの参加者に呼びかけ、オープニングセッションを締めくくりました。
「SaaSの活用など2022年式のアプローチを取り、データ活用にかかわる人たちが課題や知恵を出し合い、共有しながら前に進んでいきましょう」(田邊)